口呼吸あるいはその弊害についての情報が増えてきています。よくマスコミでも取りあげられるようになりました。ただ口で息をするだけでそんなに身体に悪いとはちょっと信じられませんね。
私たち日本病巣疾患研究会(JFIR)は、一般の方々にもこの口呼吸の怖さ、病巣疾患について知っていただきたいと思っています。
口呼吸は専門的には「こうこきゅう」と読みます。おそらく皆さんは、「くちこきゅう」と読んでいると思います。私も普段は「くちこきゅう」と読んでいます。鼻呼吸は、専門的には「びこきゅう」と読みます。「はなこきゅう」の方が一般的かもしれません。
ところで呼吸って何でしょう?呼吸とは酸素を取り込み、二酸化炭素を排出することで、私たちは二つの呼吸を行っています。体外から呼吸器系を通して行う外呼吸と体内の細胞レベルで行われる内呼吸です。口呼吸は外呼吸のひとつの方法です。
口呼吸とは、「吸う息、吐く息のどちらか一方でも口から行う呼吸法」であり、私たちはそれに加えて「常時開口状態における口唇閉鎖不全(いわゆるポカン口)」も含めています。
口呼吸になる理由は様々です。
などたくさんの原因が挙げられます。これら一つずつというわけでなく、複数の原因が絡み合っている場合もあります。
その他にも、急激な温度変化(血管作動性鼻炎や暑さや寒さの刺激でも口呼吸が誘発されます)、激しい運動、就寝中のいびきなども原因になります。携帯ゲーム機やスマートフォンの操作に集中している時も口呼吸になりがちですから要注意です。
そもそも数いるほ乳類の中で、いつも口で息が出来るのは人間だけです。これは、しゃべる機能を獲得できたからと言われています。
実に様々な問題が起こります。今回は、これを人の成長に合わせて三つのステージに分けてみましょう。
小児期 | アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎、気管支喘息などが問題となります。また歯並びが悪くなったり、虫歯や歯肉炎が増えたりといった口の問題も起こします。鼻閉により、集中力や学力が低下することもあります。この時にしっかりと対策を立てておく必要があります。その他、慢性扁桃炎を繰り返してしまうことによるIgA腎症の発症に繋がることもあるため注意が必要です。 |
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成人期 | 小児期からの疾患が引き続いていることがあります。怠い、うつ状態になる、やる気が起きないといった精神症状を見ることがあります。 色々な病気に関係していると言われている歯周病も、口呼吸によって悪化します。カゼを引きやすい、扁桃が腫れやすいと学業、仕事に与える影響も大きくなります。 |
老齢期 | ドライマウス、いつも口が渇くという症状が出てきます。その他、誤嚥性肺炎など。口腔や咽頭筋力の低下により、気道抵抗の高い鼻呼吸がつらくなり、口が開きやすくなってしまいます。 呼吸は、一日のうちでも何万回もしています。ご飯を鼻から食べる人がいないように、空気も口から吸うことはよくありません。その小さな間違いが積もり積もって大きな体の病気を引き起こすことがあります。 それぞれの時期に出来る対策もいろいろありますから、口呼吸防止、鼻呼吸推進のために専門家のアドバイスを聞くのも良いことです。 |
それでは口呼吸による弊害はどれくらい存在しているのでしょうか。幼児を対象にした研究で、保護者からの申告では21%に口呼吸が認められます *1。これが小学校高学年を対象にした専門家の診察ではその割合が倍以上の半分程度に達します *2。幼児では専門家が診察するとそれ以上の割合になっています *3。お子さんが口呼吸による問題を起こしているかどうかは、口呼吸問題に詳しい専門家に診てらうことが望ましいでしょう。
口呼吸は自覚していない場合も多いのですが、慢性的な口呼吸をしていると表情の変化が出る場合があります。例えば、口唇閉鎖困難(オトガイ筋の緊張も含む)、口唇乾燥、上顎前突(出っ歯)、開咬(かみ合わせが悪い)、堤状隆起(上あごの歯茎のヒダが腫れる)、口蓋扁桃肥大(いわゆる扁桃腺肥大)、口蓋垂反射消失(のどちんこを触ってもうえっとならない)が挙げられます。
専門的には、鼻息計検査、鼻腔通気度検査などの生理学的検査の他、CTやMRIといった画像診断で判断されることもあります。
たとえば写真を見てください。10代の女性、慢性疲労感の症状があります。唇はというと、乾燥しやや厚ぼったく、下あごの筋緊張(梅干し状のしわ)から、口呼吸であることがわかります。
免疫との関係を見てみましょう。そのためにまず掌蹠膿疱症という病気を取りあげます。その名の通り、掌(てのひら)蹠(あしうら)に嚢胞が出来る皮膚病です。原因として金属アレルギーとの関連性がいわれています。この掌蹠膿疱症は、扁桃摘出術を行うと治る場合があります。不思議ですね。
人間の鼻と口の奥には、ワルダイエルのリンパ輪といって外敵から体を守るリンパ組織が備わっています。ここに絶えず炎症が起こると(たとえば慢性扁桃炎)免疫異常が引き起こされてしまいます。慢性扁桃炎から引き起こされた免疫異常が、皮膚に現れたのが掌蹠膿疱症というわけです。
これを難しい言葉で病巣疾患(病巣感染症とも)といいます。病巣疾患とは、「身体のどこかに限局した慢性炎症があり、それ自体はほとんど無症状か、わずかな症状を呈するに過ぎないが、遠隔の諸臓器に、反応性の器質的および機能的な二次疾患を起こす病像」と定義されます。小さな症状のない炎症が、他の臓器にその炎症を飛び火のように持って行ってしまうわけです。
日本病巣疾患研究会の名称は、ここからきています。口呼吸は、慢性扁桃炎の原因となり、それがさらに次の病気を引き起こすことにより悪さをするのです。またそれだけではなく、歯並びの悪化、虫歯の増加も起こします。
もちろん口の中が冷えることにより低体温にもなりますし、口腔乾燥状態は外敵の侵入を容易に許してしまう口腔粘膜をつくってしまいます。
ここで二例ほど症例をご紹介しましょう。
上に紹介した掌蹠膿疱症をまず取りあげます。
50代の女性 掌蹠膿疱症、関節リウマチを合併しています。両方の病気に投薬治療を受けていましたが、なかなか改善しませんでした。
口呼吸の対策を行い、慢性上咽頭炎の治療を行った結果、4ヶ月で皮膚症は改善しました。
18歳のアトピー性皮膚炎です。塗り薬と内服治療を受けていましたが、あまり改善が見られませんでした。口呼吸対策で3ヶ月でこのように綺麗な肌になりました。
自分が口呼吸かどうかは、自分ではよく分からないことが多いものです。自分がもしかしたら口呼吸をしているかもしれないと、疑って見ることも必要ですね。
日本病巣疾患研究会(JFIR)は、「鼻呼吸を日本の文化に」したいと活動を行っています。口呼吸の弊害については、もう100年以上前から言われていたのですが、なかなか世に広まることはありませんでした。この口呼吸問題の幅広い啓発もJFIRの大きな役目だと考えています。
ここで今一度、体の使い方を見直して健康生活を送りたいものです。
今井一彰
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